内視鏡下外科手術内視鏡下外科手術

内視鏡下外科手術とは

内視鏡下外科手術とは、内視鏡で体内を映したモニターを確認しながら、体内で行う手術のことを指します。内視鏡をはじめ、手術に用いられる器具は、おなかに開けた小さな孔(あな)から体内に挿入されます。

内視鏡下外科手術では、胃や大腸の検査などに用いられる長くて柔らかい内視鏡とは異なり、金属製の真っ直ぐな硬性鏡(こうせいきょう)が用いられます。手術する部位が消化管などの腹部の場合は腹腔鏡(ふくくうきょう)下手術、心臓や肺など胸部の場合は胸腔鏡(きょうくうきょう)下手術と呼ばれることもあります。

硬性鏡
硬性鏡

内視鏡下外科手術に期待されること

内視鏡下外科手術に最も期待されるのは、患者さんの負担が少ない治療(=低侵襲治療)の実現です。腹腔鏡下外科手術の場合、開腹手術と比較して切開する範囲が小さいことから、キズあとが小さい、術後の痛みが少ない、回復が早い、早期の社会復帰が可能といったことが期待できます。術中も臓器が外気に触れないので腸機能の回復が早く、食事を早期に再開できる場合もあります。

また、開腹手術後の合併症である肺炎や癒着 (ゆちゃく)などを起こす可能性が低いといわれています。

切開範囲の大きさの違い(S状結腸[大腸の一部]切除の場合)
※術式により孔の位置は異なる場合があります

内視鏡下外科手術の変遷

世界初の内視鏡下外科手術は1985年にドイツで行われた胆のう摘出術です。日本では1990年に初めて行われました。1990年代以降、おなかの中の画像をモニターに映し出すビデオスコープが広く使われるようになり、画質が向上していったことで、内視鏡下外科手術は普及していきました。
当初は胆のうの摘出手術に広く実施されていた内視鏡下外科手術は、現在では胃や大腸の手術、腎臓の摘出のように、難易度の高い手術にも適用範囲が広がってきています。
また、胆のう摘出術では、おへそ部分を一箇所だけ切開して器具を挿入する単孔式(たんこうしき)腹腔鏡下手術が開発され、広く用いられています。切開範囲を従来の内視鏡下外科手術の切開範囲よりも小さくすることで術後も目立たない小さなキズあとで済み、患者さんの身体にかかる負担をさらに減らすことが期待されます。

内視鏡下外科手術の適用範囲

内視鏡下外科手術は消化器外科や泌尿器科で急速に発展し、胸部外科、婦人科などへと広がりました。がん手術では、早期の胃がん、結腸がん、肝がん、前立腺がん、肺がんで標準的な治療とされています。また、消化管領域において内視鏡下外科手術は胃・大腸の部分切除や、虫垂炎鼠経ヘルニアといった外科治療などに徐々に用いられるようになっています。
現在では関節手術などを含めたほとんどの外科領域に導入され、手術件数は増加しています。

内視鏡下外科手術の手順

おなかの内視鏡下外科手術は、一般的に次のような手順で行われます

  1. 全身麻酔をかける
  2. おなかに小さな孔を開け、臓器を傷つけないように気をつけながら「トロッカー」と呼ばれる筒状の器具を通じて、おなかの外側と中側をつなげる通路をつくる
  3. 手術作業空間を確保するため、気腹装置と呼ばれる機械で腹腔内をガス(二酸化炭素)で満たす
  4. トロッカーを通じて、内視鏡や鉗子(かんし)と呼ばれる処置具を入れる
  5. 手術する部位を内視鏡で映し出す
  6. 病巣を切除・止血する
  7. 切除した病巣を体外に摘出する
  8. 切除部位を内視鏡下で縫合する
  9. ガスを排出する
  10. トロッカーの挿入部位を縫合し、切開箇所を閉じる

手順3~8 イメージ図
手順3~8 イメージ図

内視鏡下外科手術の技術開発

内視鏡下外科手術は患者さんの身体的な負担が少ない手術として普及が進んでいますが、手術作業をサポートし、精度をより高めるための技術開発が進められています。

3D(3次元)内視鏡システム

手術部位を中心とした視野の奥行きを3次元的に映し出す内視鏡システムです。大腸がんや胃がんなどの手術ではリンパ節郭清や複雑な再建手術を必要とすることが多いため、画像を3次元的に把握する重要性が高まっています。中には、画像の解像度を高めた4K技術を搭載した外科手術用内視鏡システムの開発も進んでいて、画素数は従来機のフルハイビジョン映像の約4倍、高精細で色の再現性が上がるなどの発展を遂げています。
また、先端部の向きを手元で操作できる内視鏡も普及が進んで、上下左右をくまなく見渡せるようになり、執刀医にとって、作業しやすい視野を確保できるようになってきています。

外科手術用3Dビデオスコープ(上)/ 立体映像を写すために2組のイメージセンサーと光源が組み込まれ、向きを手元操作できる先端部(下)
外科手術用3Dビデオスコープ(上)/ 立体映像を写すために2組のイメージセンサーと光源が組み込まれ、向きを手元操作できる先端部(下)

4K技術を搭載した外科手術用内視鏡システム
4K技術を搭載した外科手術用内視鏡システム

外科手術用エネルギーデバイス

外科手術で用いられる処置具には、臓器をつかむための把持(はじ)鉗子、組織をはがしとるための剥離(はくり)鉗子、病変部を切開・切除するための鋏(はさみ)鉗子、エネルギーの力で組織を切開・剥離したり、止血したりするためのエネルギーデバイスなど、さまざまな種類があります。
エネルギーデバイスには、主に止血に優れる高周波電流、または組織の切開・剥離に優れる超音波振動を用いる2種類のデバイスがあり、使用目的によって使い分けられていますが、近年、高周波電流と超音波振動を同時に出力でき、両方の長所を兼ね備えた内視鏡下外科手術用のデバイスが開発されています。これにより迅速な止血、切開・剥離操作が可能となり、手術時間の短縮化、医師や患者さんへの負担軽減が期待されています。

高周波電流と超音波振動の同時出力を実現したエネルギーデバイス
高周波電流と超音波振動の同時出力を実現したエネルギーデバイス

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