病気・がんがんを予防する日々の心がけ

科学的根拠にもとづいた「がんの予防法」

日本は人口比におけるがんの死亡率が世界でも高く、年間で約100万人ががんになるとされています※1
1981年から日本人の死因1位となっており、現在の統計では2人に1人ががんと診断される時代です。

いまや、がんは誰しもかかる可能性がある病気といえますが、その一方で、「がんの予防」につながる具体的な対策が科学的に解明されつつあるのはご存知でしょうか。これまでのさまざまな研究から、日本人のがんの発症要因には生活習慣が深く関わっていることが明らかにされています。つまり、毎日の生活習慣を改善していけば、私たちは将来的にがんにかかるリスクを下げることができるのです。

こうした研究成果から、国立がん研究センターをはじめとする研究グループでは、科学的根拠にもとづいた「日本人のためのがん予防法」を提示しています。ここでは、その具体的な生活習慣の改善をお伝えしていきます。

※1 厚生労働省「がん対策推進企業アクション

「5+1」の健康習慣を意識しましょう

国立がん研究センターなどの研究グループは、「日本人のためのがん予防法」として、効果が期待できる生活習慣をわかりやすく整理しました。それは、「5+1」の健康習慣です。5は「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの生活習慣、さらに「感染」が+1として加わります。5つの健康習慣を実践することで、がんリスクはほぼ半減します※2※2 国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防
「5+1」の健康習慣の実践法について詳しくご説明していきます。

5+1の健康習慣

【1 禁煙】
たばこを吸う人は、がんにかかるリスクが約1.5倍も高くなることがわかっています。日本人を対象とした研究から、喫煙は肺がん、食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膀胱がんなど多くのがんに関連することが示されました。さらに脳卒中や心臓病、糖尿病、呼吸器疾患など多くの生活習慣病のリスクも上げます。
また、たばこを吸わない人であっても、周囲に喫煙者がいると受動喫煙のリスクが上がります。日頃からたばこの煙を避けて生活することが大切です。

どうしてもやめられない方は禁煙外来での治療も一案です。禁煙外来では、禁煙を希望する人に内服薬や貼付薬などによる禁煙治療・指導を行っており、一定の適用条件を満たすと保険診療も可能です。

【2 節酒】
1日あたりの平均アルコール摂取量が増えるほど、がんになるリスクが高まることがわかっています。お酒を飲む場合は、純アルコール量換算で1日あたり約23g程度にとどめることが推奨されます。

純アルコール量とは、お酒に含まれるアルコールの量で、お酒の種類によって異なります。たとえば、ビール大瓶(633ml)では純アルコール量の目安は25g程度、日本酒1合(180ml)は22g程度、ワイン1杯(120ml)は12g程度となります。

日本人男性を対象とした調査では、1日あたりの平均摂取量が純アルコール量で46g以上の人は、がんのリスクが約40%も高まり、69g以上では約60%にまで上昇します(23g未満の人との比較)。とくに肝細胞がん、食道がん、大腸がんと強い関連があることが示されています。女性では男性ほど関連性がはっきりしないものの、乳がんのリスクが高くなると指摘されています。
なお、アルコールを分解する酵素の活性が低い人が大量に飲酒すると、お酒を飲まない人に比べて50倍も食道がんになりやすくなるといわれます。お酒を飲めない人やお酒に弱い人は、お付き合いなどで無理に飲まないことが大切です。

【3 食生活】
「塩分のとりすぎ」「野菜・果物不足」「熱すぎる飲食物」などの偏った食生活が、がんの原因になることが研究で明らかにされています。次の3つのポイントを守ることで、日本人に多い胃がんや食道がん、食道炎のリスクが下がります。

塩辛い高塩分食品をとりすぎると、男女ともに胃がんのリスクが確実に高まると報告されています。塩分を抑えることは、胃がん予防のみならず、高血圧や循環器疾患のリスク低下にもつながります。

日本人の食事摂取基準では、1日あたりの食塩摂取量を男性7.5g未満、女性6.5g未満に抑えることが推奨されています※3。一方、2019年の国民健康・栄養調査(厚生労働省)では、食塩摂取量の平均が男性10.9g、女性9.3gという結果で、日本人全体としては塩分過剰の傾向にあるといえるでしょう。

ふだんの食事では、塩分の代わりに、だし、薬味、香辛料、柑橘類などの調味料を取り入れ、素材そのものの味わいを楽しむメニューを心がけましょう。また、緑黄色野菜や果物、海藻などカリウムを多く含む食材をとり、塩分の排出を促すことも効果的です。

※3 厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版

野菜と果物をしっかりとることで、食道がんのリスクを下げることが期待されます。また、胃がんや肺がんもリスクが低くなる可能性があります。

目標とすべき1日の野菜摂取量は350g、果物は200gです※4。2019年の国民健康・栄養調査では、日本人の平均野菜摂取量は280gで、約7割の人が目標量に達していません。わかりやすい目安として、「小鉢で野菜5皿、果物1~2皿」を1日でとるようにこころがけるとよいでしょう※4

※4 厚生労働省「健康日本21(第二次)

熱すぎる飲み物や食べ物は、粘膜の細胞を傷つけ、ほぼ確実に食道がんのリスクを高めます。また、喉頭・咽頭がんのリスクも高めるとされています。国際がん研究機関では、65℃以上の熱い飲み物は、食道がんのリスクを上げるとされています。お茶やコーヒーは90℃ほどで淹れることが多いので、しばらく冷ましてから飲みましょう。食べ物も同じようにある程度冷ましてからいただくことをおすすめします。

【4 身体を動かす】
日頃から身体を動かす頻度が多い人は、がん全体の発生リスクが低くなるという報告があります。がんの部位別では、身体を動かす頻度が多い人ほど、男性では大腸がん、女性では乳がんのリスクが低下しました。
では、どのくらい運動すれば、がんを予防する効果が期待できるのでしょうか。「健康づくりのための身体活動基準2013」(厚生労働省)は、18~64歳の成人に〈毎日60分歩行程度の身体活動〉+〈週1回60分の息が弾み、汗ばむほどの身体活動〉を推奨しています※5。65歳以上の高齢者については、〈強度を問わず毎日40分の身体活動〉としています。

※5 厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準 2013(概要)

【5 適正体重の維持】
中高年の日本人を対象とした調査で、肥満指数(BMI)と死亡リスクの関連が明らかにされました。調査研究によると、太りすぎ・痩せすぎのいずれも、がんを含む死亡リスクを高めることが判明しました。

男性では、痩せていて喫煙習慣のある人のがんによる死亡リスクが高くなっています。女性では、肥満に相当する人(BMI30.0~39.9)のがんによる死亡リスクが25%高い結果となりました。とくに閉経後の肥満は、乳がんのリスクを高めるとも報告されています。こうしたことから、男性はBMI21~27、女性はBMI21~25の範囲になるように、食事や運動で体重をコントロールすることが望ましいといえます。
体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))=BMI値

【+1 感染】
日本人のがんの原因として、女性では1番目、男性では2番目に多いのが「感染」です。以下のようなウイルス・細菌の感染が、がんの発生に関わっているとされます。感染により必ずしもがんを発症するわけではありませんが、検査やワクチン、感染対策などの知識を得て、感染予防や早期発見を心がけることががんを防ぐ一手となります。

B型・C型肝炎ウイルスへの長期にわたる感染が肝細胞がんの原因になることもあります。
地域の保健所や医療機関で、一度は肝炎ウイルスの検査を受け、感染が判明した場合は専門医に相談しましょう。とくにC型肝炎は抗ウイルス薬で90%が完治するので、積極的に治療を受けましょう。

ヘリコバクター・ピロリ菌への感染が胃がんの原因になることもあります。
定期的に胃がんの検診を受けるとともに、機会があれば、ピロリ菌の検査を受けましょう。
もしピロリ菌に感染していることが分かった場合は、積極的に除菌することが推奨されています。

子宮頸がんの大半の原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染です。
子宮頸がんの検診を定期的に受け、該当する年齢の人は子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の定期接種を受けましょう。

がんの種類ごとの予防法について、下記ページからご覧いただけます。

「胃がんの治療と予防」
「食道がんの治療と予防」
「大腸がん(直腸がん・結腸癌)の治療と予防」

がんは早期発見・早期治療で治せる時代へ

がんはかつて不治の病と呼ばれていましたが、医学の進歩により、早いうちにがんを発見して治療を開始することで克服できるケースが増えてきました。一方で、多くのがんにおいて初期は自覚症状がほとんどないため、発見が遅れがちです。がんの予防には、生活習慣の改善に加え、定期的にがん検診を受けることが大切です。

近年の日本人のがん罹患数の統計を見ると、消化器に関連するがんが上位に多く入っています。2019年の罹患データでは、男女ともに2位が「大腸がん」、男性では3位、女性では4位が「胃がん」です。胃がんと大腸がんは、早期の段階で発見・治療すれば95%以上が治癒するといわれており、定期的に検診を受けることがとても大切です。

それぞれのがん検診の内容や推奨年齢、具体的な方法をアニメーションでわかりやすく解説しています。

対象年齢になったら、がん検診を「定期化」

がんは全身のさまざまな部位に発症しますが、大腸がん・胃がん・肺がん・乳がん・子宮頸がんの5つのがんについては、厚生労働省は「対策型検診」として定期的にがん検診を受けることを推奨しています。

検診が推奨される対象年齢は、子宮頸がんは20歳以上、大腸がん・肺がん・乳がんは40歳以上、胃がんは50歳以上です。こちらに、年齢ごとに推奨される対策型検診の種類やペース、検査内容をまとめています。誕生日などの節目にチェックし、予定を立てておきましょう。

「5+1」の健康習慣でがんの予防を行い、さらに定期的ながん検診で早期発見・早期治療に努めましょう。自覚症状がなくても定期的ながん検診の受診が重要です。胃がんや大腸がんの検査で行われる内視鏡検査に疑問や不安がある方は、内視鏡検査に関するQ&Aもご覧ください。

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