食道がんの治療と予防
治療:手術
食道がんの手術は、基本的に病巣(びょうそう)部の切除をしたあと、代わりの食道を作ります(再建)。そのため切除する範囲は非常に重要で、がんのできている部位と進行度によって手術内容が決まります。
切除手術は、病巣の範囲を明確にするために規定された3区分(頸部(けいぶ)、胸部、腹部)に基づいて行われます。
最も発生頻度が高く、切除手術が行われているのが胸部食道がんです。胸部食道がんでは、ほぼ食道を全部摘出し、周りのリンパ節を広範囲に取り去ります。そして、基本的には胃管をのどに引き上げ、食物の通る道として再建します。何らかの病気で既に胃をなくしている場合は小腸を代用することもあります。
がんの発生範囲が頸部食道に限られた場合は、がんを切除後、空腸で再建します。
腹部食道では下部食道と胃噴門(いふんもん)側の切除を行い、胃あるいは小腸で再建します。
食道がんのリンパ切除(郭清:かくせい)は、再発を防ぐために非常に重要で、がんの占拠部位ごとにとるべきリンパ節群がきめられています。胸部進行食道がんの場合、頸部、胸部、腹部3領域のリンパ節郭清術が広く行われるようになり治療成績が向上しました。
手術後は代用の食道を使うことになるので、食物の通りが悪くなるため、飲み込みにくかったり、むせたり、食べられる量も少なくなってきます。しかし、消化の悪いものは避けてゆっくりと慣れてゆけば克服できます。
手術後の合併症として、胸部食道がんで呼吸器合併症(声帯浮腫、肺炎等)が多く認められますが、適切な対応によりほとんどは改善します。
食道再建経路
治療:内視鏡による治療法
内視鏡による治療法としては、PDT(光線力学的療法)やレーザー焼灼(しょうしゃく)などもありますが、もっとも一般的に行われている内視鏡による治療法は病変のある粘膜を切除する方法です。内視鏡による治療は、開腹手術に比べて切除部位が小さく、出血や痛みも少ないため、患者さんにとって負担が少ないことが大きなメリットです。切除した部分は取り出し、組織を調べ、場合によっては追加切除を行いがんの病巣(びょうそう)を完全に切除します。一方、内視鏡治療には出血、穿孔(せんこう)のリスクがあるため、慎重な操作が求められます。
ポリペクトミー:
隆起(りゅうき)した病変にはポリペクトミーといって、高周波スネアとよばれる金属の輪の中にがんを取り込み、しばり、通電することにより切除します。
内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR):
隆起していない病変、表面型の腫瘍にも内視鏡による切除を可能にした方法です。粘膜下層に生理食塩水などを注入することにより、病巣を固有筋層から浮かせて高周波を用いて切り取る方法です。EMRは、下記のようなプロセスで行われます。
EMRの手技
食道の外科手術はがんを切除する以外に、食道を再建するために腹部も切開しなければなりません。表層に限られた小さながんだけの場合には、内視鏡による治療(EMR)で取り去ることが可能になり、患者さんの負担は外科手術に比べ非常に軽くなりました。
食道がんの治療にEMRを選択するにあたってはいくつかの条件があります。
1つは深達度(しんたつど)です。浸潤(しんじゅん)が浅く粘膜固有層までの表在型のがんであることが第一です。この深達度のがんは転移の可能性がきわめて低いと考えられるためです。ただし、表層に拡大している状態や、多数の病巣がある場合は除外します。現在、患者さんの負担を考えて、粘膜筋板まで浸潤したがんにもEMRが検討され始めています。しかし、正確な深達度診断と病巣の悪性度を判断することは難しいため、粘膜下層に進んでいる疑いが少しでもあればEMRを行ったのち病理(びょうり)組織検査を行い、結果によっては更に外科的に切除し、完全な切除をめざします。
2つめは大きさです。腫瘍の大きさは、3センチ未満のものが対象になります。切除範囲が大きくなれば、術後の狭窄(きょうさく)や穿孔の危険がでてきます。狭窄に関しては、食道内粘膜の内腔周囲2/3までの病巣であれば切除可能です。 3つめとして病巣数も重要な要素です。離れた3~4つの病巣であれば1度に切除可能です。
また、本来外科的手術が必要な患者さんでも、何らかの理由により手術を行うことが出来ない場合等の消極的選択として、内視鏡治療が行われることもあります。
内視鏡的粘膜下層はく離術(Endoscopic submucosal dissection: ESD):
EMRで一度に切り取ることができる病変が食道の場合は約3cmまでと制限があるのに対し、より広範囲に一度に病変を切り取ることができる治療法として登場した手技が、ESDです。以前は外科手術を行っていた2㎝以上の病変でも、おなかを切らずに内視鏡で治療できることが多くなりました。ESDは、下記のようなプロセスで行われます。
ESDの手技
ESD治療の際には、切開・回収・止血などの各プロセスに応じて、さまざまな内視鏡処置具が使われています。
切り取られた病変は、顕微鏡を使って組織の様子が確認されます(「病理検査」と呼ばれています)。
ESDでは大きな病変もひとかたまりで切除できるため、病理検査でのより正確な診断にも役立つと考えられています。
治療:化学療法
食道がんは抗がん剤の感受性(反応性)が比較的高いがんです。様々な種類の抗がん剤が食道がんに対して使用を認められています。抗がん剤はがん細胞の異常な増殖を抑える効果を持つ薬剤ですが、1つの薬剤では限界があるため、一般に幾つかの薬剤を用いる多剤併用(へいよう)療法が行われます。わが国では、外科手術の成績が良好なため、かなり転移している例を除いて、第一選択には手術が行われています。化学療法は手術以外の治療を支える重要な方法です。
治療:放射線療法
食道がんの患者さんは食事が十分取れず、体力も低下しているケースが多いため、放射線療法は一般に入院して行われます。
手術が第1選択である日本で放射線治療を行うのは、がんが進行している場合や手術できる体力がない場合に行われます。しかし、日本人のほとんどが放射線感受性(反応性)の高い扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)であるため、放射線療法は大きな柱です。早期のがんであれば放射線療法で十分有効なこともあります。
近年、放射線療法と化学療法とを両方行う「放射線化学療法」が注目を集め一般的になりました。より大きな効果が期待できること、小さな転移をコントロールして手術後が良好であることが評価されています。今後、手術をするかどうか迷う状況のときに、治療の選択肢の1つとなることが期待されています。
放射線療法による副作用には、急性期では骨髄抑制(こつずいよくせい)(白血球や血小板などが減少する)、皮膚炎、嘔吐、下痢、食欲低下、飲み込み時の違和感など、また、慢性期では脊髄炎やそれによる四肢麻痺、肺臓炎、心筋炎などがあります。
治療および手術後は定期的に診察を受け、経過観察を継続しましょう。
予防
食道がんの危険因子としては、アルコール飲料、熱い食べ物と飲み物、タンパク質、ビタミン、ミネラルの不足した食生活が関係あると言われています。
逆に、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分にとった食生活を心がけることが大切です。
食道がんは60~70歳の男性に多く、これには、特に喫煙と飲酒の因果関係が指摘されています。喫煙に関しては、ほぼ確実な要因ともいわれ、たばこを吸わない人も「受動喫煙」といってたばこの煙を間接的に吸って、喫煙者同様にリスクが高まるともいわれています。
がんの発生には様々な条件、過程がありますので、がん予防の特効薬はありませんが、日々の心がけで、がんのリスクを減らすことは可能です。