おなかと内視鏡のコラム

がん予防のためにも大切な免疫の力

免疫はがん細胞を攻撃する

―――健康な人の体にも生まれるがん細胞

人の体は無数の細胞が集まってできています。この細胞の遺伝子に変異が起こったものが「がん細胞」であり、がん細胞が集まったものが「がん」です。がんは、正常な細胞の栄養を奪いながら周囲の臓器へ広がっていき、体の働きにさまざまな障害を引き起こします。 実は、健康な人の体にも毎日数千個のがん細胞が生まれています。しかし、通常は「免疫」の働きで退治され、がんを発症するまでには至りません。

―――免疫の力が弱まるとがん細胞が増える

免疫には、目、鼻、口、腸管などの粘膜に付着した病原体(ウイルスや細菌など)が体内に侵入することを防ぐ働きがあります。防ぎきれなかった病原体が体内で増殖すると(いわゆる「感染」の状態です)、今度は体内にいる免疫が病原体を捉え排除します。 体内の免疫には、外部から侵入した病原体だけではなく、体内で発生したがん細胞も排除する力があります。病原体と同様、がん細胞のことも異物と認識するのです。しかし、免疫の力が弱まったり、がん細胞の数が増えすぎたりすると、排除されずに生き残ったがん細胞がさらに増殖していきます。がん細胞のなかには、免疫の細胞と結びついてその働きにブレーキをかけ、自分が排除されないようにしてしまうものもいます。 したがって、がんを予防するためには、免疫本来の力を保つことや弱ってしまった免疫の力を強めたりすることが大切です。

生活習慣と免疫との関係性

日本人男性のがんの約半分、女性のがんの約3割は、生活習慣や感染(肝炎ウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、ヒトパピローマウイルスなど)が原因とされています。生活習慣においてどのようなことに気をつけるべきか、免疫の観点から考えていきます。

たばこやアルコールの免疫への影響

たばこに含まれる発がん物質は、免疫の力を低下させ、がんのリスクを上げる可能性があります。また、たばこを吸ったときに発生する大量の活性酸素は、DNAにダメージを与え免疫システムを正常に機能させなくなることがわかっています。たばこを吸っている人は禁煙に努めましょう。また、吸わない人もできるだけたばこの煙を避けるようにしましょう。 過度の飲酒は肝障害や膵炎、がんのほか、さまざまな疾病を引き起こし(※1)、免疫細胞の力を低下させる作用があることがわかっています(※2)。お酒は飲みすぎに注意し、適量を楽しむようにしましょう。

食生活・身体活動と免疫

腸にはからだ全体の免疫細胞の半数以上が集まっているといわれます。栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることが、腸を良好な状態に保ち、免疫の力を高め、がんのリスクを下げるものと考えられます。 肥満をがんのリスク要因とするデータがありますが、痩せすぎによる栄養不足も免疫の力を弱め感染症を引き起こす要因となることがわかっています。がん予防の観点からは適正体重の維持が大切です。 身体活動量が多い人ほどがんのリスクは低下するというデータがあります。理由はまだはっきりとはわかっていませんが、身体活動が免疫の「炎症を抑える力」を改善することが一因ではないかとされています。炎症はがんの発症につながる場合があります。

ここまでみてきたことから、がんの発症には免疫の働きが大きく影響していることがわかります。より良い生活習慣を実行することが免疫の力を上げ、がんの予防につながります。同時に定期的ながん検診を受けがんの早期発見に努めることで、健康寿命を延ばしていきましょう。

具体的ながん検診の種類や方法については、こちらをご参照ください。

参考文献

※1:藤田尚己,竹井謙之:アルコールによる臓器障害. 医学のあゆみ233(12):1159 – 1163,2010.

※2:西川裕作,東田有智:アルコールと呼吸器疾患. 日本気管食道科学会会報 69(5)290-296, 2018.

2022年4月14日

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